残念ながら,「罪のない嘘」という神話は本質的にはおとぎ話だ。「罪のない嘘」は「本物の嘘」よりも悪質度は低いかもしれないが,それでも他のすべての嘘と同じく,ある程度の被害をもたらす。ウソがうまく通れば,だれかをだますことになるのはちがいない。しかも,決定的なのは,たとえだまされた人が嘘とわからなくても,だました本人はそれを知っている。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者ベラ・デパウロと彼女の学生たちは,数多くの実験をくりかえした結果として,嘘はたとえ「罪のない嘘」であっても嘘をついた人に損失をもたらすことを発見した。デパウロによれば,嘘は「心の痛み」をもたらし,嘘をついた人は多少なりと気分が悪くなる。さらには,この気分の変化は,会話が嘘から離れてもまだ続きうる。それが積み重なれば,対人関係に感情的な「染み」がつく。嘘が混じっている会話は正直な会話とくらべて,温かみや親しみや心地よさが劣ると,デパウロはいう。
ロバート・フェルドマン 古草秀子(訳) (2010). なぜ人は10分間に3回嘘をつくのか:嘘とだましの心理学 講談社 pp.31-32
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