嘘をつくときにはあきらかにそうとわかるシグナルを発するものだという根本的な仮定は,「嘘つきの優位性」の重要な一要素となっている。人が嘘をつくときに発する明らかなシグナルはいろいろあるとされている。たとえば,視線をそらす。脚を組みかえたり,手の指で机をコツコツたたいたりする。顔が赤らむこともあるだろう。とくに大きな嘘ならば,汗をかいたりもするだろう。そこで,そうしたシグナルが認められないとき,私たちは相手が嘘をついていないと判断することが多い。
どのようにしてこれらが「うそつきの優位性」の要素として働くのかを知るために,まずは「視線をそらす」という行動について考えてみよう。すでにこの本で紹介したテキサスクリスチャン大学のチャールズ・ボンド教授がこんな実験をした。さまざまな国の2000人以上の人に,嘘をついているかどうか見分けるポイントを尋ねた。もっとも多かった答えは,視線をそらすかどうかだった。嘘をつくと目が泳ぐという考えは,あきらかに国境を越えて広がっている。
だが,それは事実だろうか?驚いたことに,心理学者がいうところの「視線回避」は実際には嘘と関連していないようだ。数多くの研究者が実験をして,結果として全員が,視線をそらすことは嘘をついていることを知らせるシグナルではないと結論づけた。視線回避は他の意味を示してはいるが—たとえば服従であり,私たちの先祖にまでさかのぼれば,彼らは視線をそらすことで相手への服従を表現した—嘘をつくこととは関連していない。
ロバート・フェルドマン 古草秀子(訳) (2010). なぜ人は10分間に3回嘘をつくのか:嘘とだましの心理学 講談社 pp.45-46
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