ポリグラフの欠陥は,視線回避がかならずしも嘘つきを見破らないのと同じく,ポリグラフが測定する生理学的反応もまた,かならずしも嘘つきを見破らないという点にある。もし,一階から六階まで階段を駆けのぼってすぐにポリグラフを受ければ,あなたの話はすべてが嘘だという判定が出るだろう。息を切らし,汗をかき,心臓が高鳴っているからだ。激しい運動がもたらす身体的シグナルは,緊張がもたらすシグナルと同じなのだ。さらにいえば,もしあなたがポリグラフを受けるときに極端に緊張していれば—たとえば,3人殺害の犯人として誤認逮捕されるのではないかと不安にかられているせいで—あなたの体が示す反応は,機械上では嘘をついているときと同じように見える。私の同僚の社会不安障害のご主人を思い出してほしい。嘘をついていると示す典型的なしるしがみられるからといって,その人が嘘をついているとはかぎらない。これはポリグラフが抱える根本的な問題点である。NRCはポリグラフに関してつぎのように報告している。「嘘をつくと生じやすい心理状態(たとえば,嘘をついていると判断されるのではないかという恐れ)はポリグラフが測定する生理的反応に影響をおよぼしがちだが,嘘をついていなくても同じような心理状態になりうる。そのうえ,ほかにもたくさんの心理的および生理的要因(たとえば,検査されること自体に対する不安など)が,測定値に影響を及ぼす。これらの理由から,本来的にポリグラフ検査はまちがった結果をもたらしやすい」
ロバート・フェルドマン 古草秀子(訳) (2010). なぜ人は10分間に3回嘘をつくのか:嘘とだましの心理学 講談社 pp.49
PR