自分はだまされないと決めこむ,このような心理学的現象は「真実バイアス」として知られている。真実バイアスとは,相手の言動にもとづいて客観的に判断するのではなく,その人が真実を語っていると信じこんでしまうことを意味する。説得力のある理由を呈示されないかぎり,私たちは相手が嘘をついているとは思ってもみないのだ。最新の心理学の世界では,真実バイアスはいわゆる「ヒューリスティックな判断」のひとつであるとされる。ヒューリスティックな判断とは,心理学研究者が認識の経験則に関して使う言葉であり,私たちの世界を単純化してくれる。すなわち,与えられたすべての情報をもとに物事を判断するのではなく,潜在意識下で働く心的ルールに従ってすばやい判断をくだすのだ。真実バイアスはそうした精神的ルールのひとつである。ガソリンスタンドで車を誘導する店員の顔色をうかがったり,駅のホームで昨日の晩のアメフトの試合はペイトリオッツが勝ったと話している男が本当はどう思っているのか探ったりする必要をなくしてくれる。大半の人は本心を口にしていると信じて,私たちは日常生活を送っている。
ロバート・フェルドマン 古草秀子(訳) (2010). なぜ人は10分間に3回嘘をつくのか:嘘とだましの心理学 講談社 pp.53-54
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