子どもの嘘はとてもありふれているので,じつのところ,心理学者は子どもが年齢を重ねるにつれてどんな嘘をつくか,はっきりとしたパターンを発見した。言葉による嘘はたいていの子どもで3歳くらいにはじまるが,なかには2歳で早くも嘘をつく子もいる。両親がルールを定めていてそれを破ると罰を与えられるのだと理解し,それと連動して嘘をつくようになる,というのが典型的だ。たいていの場合,最初はそうした罰を逃れようとして反射的に嘘をつく。重要なのは,それらの嘘はごく単純で,それは使われる言葉からもわかる。3歳の子どもは自分が花瓶を壊したり,兄弟をぶったり,最後の1枚のクッキーを食べてしまった明白な証拠が目の前にあっても,「ぼく(わたし)じゃない」と主張するだろう。3歳児は自分のしわざではないふりをする能力はあるものの,それを信用できる言葉にすることはわからないし,そうするための洞察力もない。
4,5歳になると,子どもの嘘には,もっと微妙なニュアンスがつくようになる。やみくもに「ぼく(わたし)じゃない」と主張するのではなく,もっと計算して「犬がやった」などというようになる(なぜ子どもがこの段階に進めるかについては,この章の後半で説明する)。また,この本の1章で検討したような社会的な嘘をつくようになるのは,4歳くらいからだ。幼稚園に入るころには,子どもどうしの交流がさかんになって,傷つきやすい自我に迎合したりそれを強化したりするために,嘘の必要性が増大する。ここでも,はじめのころの嘘は未熟だが,心理学的には大人が嘘をつくときと同じような働きをする。大人なら仕事での成功を自慢するだろうが,子どもはネス湖の恐竜をさがしに旅行へ行ったと自慢するだろう。
ロバート・フェルドマン 古草秀子(訳) (2010). なぜ人は10分間に3回嘘をつくのか:嘘とだましの心理学 講談社 pp.74-75
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