少年たちは,何に対しても「むかつく」と言う。しかしじつのところ,当の本人たちも,自分が何に「むかついて」いるのかわかっていない。
この「むかつき」は,「おなかがすいた」「歯が痛い」「あいつに嫌なことをされたけど,仕返しをすることができないからくやしい」といったものではない。また,何をしたら解消するといったものでもない。親とけんかしても/しなくても,男子と女子が仲良くしていても/していなくても,理科室のにおいがしても/しなくても,彼らは「むかつき」続けるだろう。
この「むかつき」は,何かに対する,輪郭のはっきりした怒りや不満ではない。そうではなくて,「存在していること自体がおちつかない」,「世界ができそこなってしまっている」ような,漠然とした,いらだち,むかつき,おちつかなさ,である。こういう,いわば存在論的な不全感に直面したときの,かけ声が,「むかつく!」なのである。
内藤朝雄 (2009). いじめの構造:なぜ人が怪物になるのか 講談社 pp.67-68
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