「こころ」の秩序空間においては,他人に咎を突きつけたり,言いわけをしたりする政治闘争は,行為が法や正義にかなっているかどうかではなく,もっぱら「こころ」を問題にすることによってなされる。たとえば,「あいつはムカツク」とか「ジコチュウ(自己中心的)」といった告発は,行為ではなく「こころ」を主題とした告発である。
「こころ」を秩序化の原理とした生活空間では,いつも他人から「こころ」をあげつらわれ,たがいの「こころ」を過度に気にし,不安定な気分で同調しなければならない。普遍的なルールや正義ではなく,「こころ」や「気持ち」に準拠してクレームをつける場合,攻撃する側は,あらゆる方向から「こころ」を見られ,自分の「こころ」に反応する他人がどういう悪意を持つかわからず,それにより自分の運命がどう転ぶかわからない不安を全方位的に生きる。そして弱者は「友だち」に対してひたすらビクビクと「反省」の身振りをするのだが,それが強者にはめっぽうおもしろいのである。
内藤朝雄 (2009). いじめの構造:なぜ人が怪物になるのか 講談社 pp.175
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