このような「情報操作」を欧米では「Spin」(スピン)という。そして,このスピンの技術に長けている人間のことを「スピンドクター」と呼ぶ。日本語に訳すと,「情報操作の達人」というところか。アメリカやイギリスでは,隠語などではなく,ごく当たり前に「スピン」という言葉は社会の中に浸透している。たとえば,アメリカ大統領府の記者会見会場は「スピン・ルーム」という。アメリカ社会においては,記者会見とは大統領がメディアを通じて国民に対して情報操作をおこなう場だという認識が浸透しているからだ。
では,この日本ではどうだろう。峰久氏の言葉を借りるまでもなく,メディアによる報道がスピンで溢れているのは紛れもない事実だし,薄々そんなところだろうと勘づいている人々も大勢いることだろう。だが,首相官邸の記者が「情報操作記者」と揶揄されているという話は寡聞にして聞かない。明らかにスピンは存在しているのに,公には語られることはないという,なんとも理不尽な環境にメディアは置かれているのだ。
窪田順生 (2009). スピンドクター:“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術 講談社 pp.8
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