さて,このようなマスコミ訴訟はほとんどの場合,「名誉毀損」という問題をめぐって争われることになる。そこで,マスコミ側はどのように戦わなければいけないのか。まず大前提としてクリアしなければならない3つのハードルがある。
ひとつ目は,その記事や放送内容に「公共性」があるか。このケースでは,有名人のスキャンダルが,果たして公共性があるのかという問題だ。アイドルの男女関係がどうしたとかというプライバシー的な話題は,この「公共性」という点において非常に苦しい。
ふたつ目に,「公益目的」があるか。読者や視聴者がそれを知ることによって,どのような利益があるのか。おわかりかと思うが,「楽しい」とか「面白い」という次元の話ではない。「国民の知る権利」を十分に満たすような目的なのかということだ。
そして最後に,「真実性」があるか。その有名人のスキャンダルがデタラメではなく,真実であればいいわけだ。これらの3つの要件を満たせば,法律上,報道した側は罰せられることはない。
正直なところ,「公共性」や「公益目的」というのは,ものは言いような部分もあるのでどうにか主張を通せることもあるのだが,多くのマスコミが苦しむのが「真実性」の証明である。たとえば,このケースでは友人や部下らに聞いたのだから,それを伝えて「真実だ」と証明したいところだが,その情報源の実名は口が裂けても明かせない。彼らはリスクをとって,こちらに情報を提供してくれた。「情報源の秘匿」は,マスコミにとって絶対に守らねばならないモラルであり,鉄則だからだ。
窪田順生 (2009). スピンドクター:“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術 講談社 pp.155-156
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