最後にもう1つ,ゴールトンに注目する理由は,彼が測定についてきわめて現代的な関心をもっていたことである。ゴールトンは,曖昧でとらえがたい行動を測るための現実的な測定法を見出すことに熱中した。1885年,彼は「ネイチャー」誌に,「落ち着きのなさの測定法」と題する論文を発表した。このなかで彼は,長期にわたる観察から得た結論を紹介している。講演のような大きな集まりにおいて,聴衆は1分につき平均1回身動きする。講演者が聴衆の注意をひき始めると,その段階でこの率は半分ほどに減少し,同時に身動きする様子も変化する。動きの時間は短くなり(関心をもった聴衆はすぐに体を動かすのをやめる。退屈していると動きが長びく),そして上体の振れの角度(船乗り用語でヨー[船首を左右に振ること])もまた減少する。したがってどの時点においても,聴衆がどれほど退屈しているかを手っ取り早く知るには,まっすぐな姿勢からどれほど身体が傾いているかが指標となるだろう。ゴールトンはこれを,「何らかの回顧録を読むようなときに,聞き手の退屈度を数値に表す」ための有望な手段になりうるとして,読者に推薦している。
一風変わってはいるものの,この論文はきわめて現代的である。ゴールトン以前にも多くの哲学者が,人間の特性について思いめぐらせてきた。だがその特性も,測定できなければ何一つ(少なくとも科学的には)意味をなさないことに気づいた人は,ほとんどいなかった。科学としての心理学の仕事の大部分は,すぐれた測定を考え出すことと,その測定の優秀さを示すことの2つの柱からなっている。事実,「学問として尊敬される」心理学をそれ以外の心理学から区別するのは,この測定への関心なのだ。ゴールトンは売春婦と貴族の体重,反応速度,頭のサイズ,指紋の形態,そのほか多くの特徴を計測している。ゴールトンが人格理論に対して行った特別な貢献は,パーソナリティがどのように測定されうるかをはじめて考え,それを科学的に研究できる領域に持ちこんだことであった。
ダニエル・ネトル 竹内和世(訳) (2009). パーソナリティを科学する 白揚社 pp.24-25
(Nettle, D. (2007). Personality: What makes you the way you are. Oxford: Oxford University Press.)
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