一緒に育てられる一卵性双生児は,100パーセントの遺伝的影響を分かちもち,共有環境による影響のすべてを受け取る。もちろん,非共有環境の影響は何ひとつ分かちもつことはない。別々に育てられた一卵性双生児は100パーセントの遺伝的形質を分かちもつが,共有環境は何ひとつ(胎内での9カ月を除いて)もたず,さらに当然ながら非共有環境はまったくない。そうなると,別々に育てられた一卵性双生児の似通い方と,一緒に育てられた一卵性双生児のパーソナリティの似通い方の差は,誕生後の共有環境による影響の直接の評価値となる。研究では,その影響のサイズはゼロと出た。養子に出された子供についても同じことができる。養い親のもとで育った子供は,生物学的きょうだいとの間では遺伝的形質の50パーセントを分かちもつが,共有環境の影響は何ひとつもたない。一方,養子家庭のきょうだいとの間では,遺伝的影響はまったく分かちもたないが,共有環境の影響は100パーセント同じである。ここから共有環境の影響が直接に評価できるわけだが,ここでもまた,結果はゼロであった。おそらく最も直接的で説得力のある証拠は,同じ家庭で育った義理のきょうだい同士のパーソナリティ特性の似通い方が,同じ集団からランダムに2人選び出したときのそれとくらべてまったく変わらないということだろう。
これが事実だとすると,導き出される結論はややもすれば心を乱すものとなる——親のパーソナリティは子供のパーソナリティに何ら重要な影響をもちえない(もちろん遺伝子経由は別として)。子育てスタイル(どの子に対しても同じであるかぎり)は,子供のパーソナリティに何ら重要な影響をもちえない。親の摂食,喫煙,家族数,教育,人生哲学,性についての態度,結婚生活の状況,もしくは再婚は,子供のパーソナリティには何ら重要な影響をもちえない。もしこのうちのどれかが一貫した影響をもつとすれば,同じ家庭で育った血のつながらない子供同士は,ランダムに選ばれたペアよりもパーソナリティが似ているはずである。だが実際にはそうはならないのだ。これを信じられないと思う場合にそなえて,「但し書き」が2つ用意されている。第1に,親の行動と家族の状況は,家族という基板の内部では,明らかに子供のパーソナリティに影響を持つ。それらの影響は,ひょっとしたら一生続くものかもしれない。以下に両親が家族を仕切るか——これは当然ながら,その家族のメンバー同士の関係と行動を形づくるだろう。問題はそれが,その子供たちが家庭の外で世界と取り組むときの大人のパーソナリティにまでは及ばないということなのだ。第2に,この結論を出した研究が対象とするのは,おそらくかなりきちんと機能している家庭だろうということだ。極度に暴力的な,あるいは虐待された子供時代の経験は,その子供のパーソナリティに永続的な効果を残すかもしれない。したがって,これらの研究が本当に示しているのは,通常の家庭の範囲内において,共有された家庭の要素が大人のパーソナリティに何の影響ももたないということなのである。
ダニエル・ネトル 竹内和世(訳) (2009). パーソナリティを科学する 白揚社 pp.228-229
(Nettle, D. (2007). Personality: What makes you the way you are. Oxford: Oxford University Press.)
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