たとえばあなたが,道徳的かつ論理的見地から考えた結果,自分の時間を捧げる対象として,地球温暖化の意識を高めることが最も大切だという結論に達したとしよう。問題は,あなたの外向性が低く,神経質傾向が高いことである。つまりあなたは,とうてい演壇の上で聴衆に向かって呼びかけたり,あるいはメディアを通じて人々を説得する仕事に向いていないのである。その種のキャンペーンには,大衆の想像力を捉えるカリスマ的指導者や話し手が必要なのだ。なんとか頑張ってやろうとしてもうまくいかず,あなたは挫折した気分に襲われる。では,どうするか。あきらめて他のことをするべきだろうか。どうやったら,自分の価値観が命ずることと,自分がもつパーソナリティとを一致させることができるだろうか。
現代のすべての複合的な活動と同じく,地球温暖化キャンペーンもまた,多くの面をもっている。必要とされるのは,表に向けるカリスマの顔だけではない。舞台裏で,気候の変動に関する最新の科学的技術を集め,批判の目で査定するためのリサーチワークもまた必要なのだ。ここにあなたの出番がある。自分では気に入らないその内向的性格ゆえに,図書館で静かに資料に向かい,科学的裏付けをとる作業に1日過ごすのを心から楽しめるのだ。大勢の人の前であなたをナーバスにするその神経質傾向こそが,研究のこまごました統計データや方法論を相手に粘り強く取り組むためには理想的なのである。この種の不可欠な仕事は,キャンペーンのスターには絶対に無理だろう。あなたが羨む彼らの高い外向性と低い神経質傾向がそれを阻むからだ。ここにあなたが赴くべきニッチがある。要するに,自分に向いていないことに,時間とエネルギーを浪費しないことである。正しいニッチにいさえすれば,キャンペーンで働く他の人々はあなたを必要とするだろう。そしてあなたが彼らを評価するように,彼らもまたあなたを高く評価するだろう。
ダニエル・ネトル 竹内和世(訳) (2009). パーソナリティを科学する 白揚社 pp.258-259
(Nettle, D. (2007). Personality: What makes you the way you are. Oxford: Oxford University Press.)
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