私たちはすべて,複合的に入り組んだ社会のネットワークにはめこまれている。家族,コニュニティ,そして組織……そのどれもがさまざまに専門化した多くのニッチを提供してくれる。大人のあなたが信念としてもつようになった目的や価値が何であれ,正しいニッチを選ぶかぎりは,自分のパーソナリティ傾向と調和しながらそれを実践して生きる方法がある。これまで何かに取り組んできて,一度として心が落ち着くことがなかったのであれば,ひょっとして自分にあったニッチを目指していなかったのかもしれない。家族や文化,あるいは時代に評価されるようなニッチはもう要らない。そうしたプレッシャーに対して,あなたは敢然と立ち向かう覚悟をもつべきだ。現代の豊かな社会では,提供される社会的役割やライフスタイルはきわめて多様である。社会にはおびただしい人々を押し込むスペースがある----ワーカホリック,家事労働者,親,庭師,あるいは道化,さらには資金調達者,科学者,そして奉仕者……。リストは際限なくつづく。かつての社会はこれほど多様な人々の枠を支えることができなかった。今では,あなたのもつ特性がそのまま有利になるような適所を見出すことは,これまでにないほど可能なはずである。
だがその一方で,落とし穴にはまる危険もある。その手のニッチは世の中におびただしい。薬物依存症者や犯罪者のためのニッチ,世界が自分なしで動いていくのを横目に見ながら一人孤立して苦しむ人々のためのニッチ,そしてなかでも,自分が何のために生きているのかを見出せないまま,形だけの人生を生きる人々のためのニッチ……。自分にふさわしい良いニッチを探しだすとともに,間違ったニッチを避けるために,心を砕かなければならない。私たちにはそのための自由と力と,そして責任がある。そのことは同時に,ある種の選択に必然的にともなうコストを理解することでもある。あなたが外向性と開放性において高いスコアをもつのであれば,自己を押し出し自己の利益を追求する主体性の能力には問題がないだろう。だがコミュニオン,つまり他の人々との交流については,おろそかになるかもしれない。あなたが高い調和性をもっているならば,無意識にコミュニオンタイプの行動をするだろう。だが,果たして個人としての自分を十分に出しているだろうか。人生においてしばしば私たちは,「回転に逆らった」適応を必要とするかもしれない——自分のパーソナリティが不得手な事柄に意識的に気を配るために。
ダニエル・ネトル 竹内和世(訳) (2009). パーソナリティを科学する 白揚社 pp.260-261
(Nettle, D. (2007). Personality: What makes you the way you are. Oxford: Oxford University Press.)
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