強迫観念とは,追いはらっても追いはらっても消えない,不安な考えやイメージである。強迫観念(obsession)という言葉は「包囲する」という意味のラテン語からきている。そのとおり,強迫観念は患者を包囲し,たまらない不安に陥れる。いくら消えろと祈っても消えてはくれない。少なくとも,長時間,あるいはコントロールのきく方法で消すことはできない。強迫観念にとりつかれた者は落ちこみ,不安になる。ふつうのいやな思いとはちがって,強迫観念は薄れないどころか,当人の意思に反してくりかえししつこく襲ってくる。たまらなく厭わしいものだ。
たとえば美人に出会って,彼女のことが心から離れなくなったとしよう。これは強迫観念ではない。「何度も思い返すこと(ルミネーション)」にすぎない。べつに不都合なことではなく,きわめて正常だし,楽しくさえある。カルヴァン・クラインのマーケティング部門がオブセッションという言葉を正確に理解していたら,香水の名は「オブセッション」ではなく「ルミネーション」になっていたかもしれない。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.12-13
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)
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