一般にはOCDの患者は40人にひとりだが,家族や親戚にトゥレット症候群の者がいる場合には5人にひとり,トゥレット症候群の患者自身をとると2分の1から4分の3はOCDであるという数字からみても,遺伝的関連があるという理論は信憑性が高そうだ。トゥレット症候群の患者は,チックの激しい収縮運動がもとで関節炎や腱炎を起こすことが多いこのひとたちは強い衝動に襲われ,その不快感を解消するためにチックと言われる筋肉の収縮運動をおこなう。あるいは発声のチック症状があらわれて,せきばらいをくりかえし,それが高じるとげっぷや大声,吠え声を出したりする。また,無意識に猥褻な言葉や人種差別的な言葉を叫びだすようになり,当人には非常に大きなストレスになる。OCDの場合と同じで,トゥレット症候群の症状はストレスによって悪化する。UCLAのPETスキャンによる予備的なデータによると,トゥレット症候群の患者では,尾状核の隣に位置して身体的な動きを調整する線条体の一部(被核)の代謝作用に変化が見られる。OCD患者には運動性チック症状のある者が多く,トゥレット症候群患者の多くに強迫性障害の症状がある。つまり,両者には線条体の皮質調整機能の異常(チックの場合は運動野,強迫観念や強迫行為の場合には眼窩皮質の調整機能)という共通性があり,チックには被核が,OCDの症状には尾状核の異常が関係しているらしい。このふたつの病気は,運動や思考をふるい分けて調整する脳の構造と密接な関係があり,相互に関連のある遺伝的な条件がかかわっていて,それらがトゥレット症候群の場合には筋肉の運動(チック)に,OCDの場合には思考(強迫観念)にあらわれると考えられるのである。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.107-108
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)
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