OCDの強迫観念は宗教的な性格を帯びて信仰篤いひとたちを悩ませることがよくあるが,この事実に適切な関心が向けられているとはかぎらない。たとえばはじめて専門家の治療を求めたクリストファーが,自分には悪魔がついているのかもしれないと考えた,とおそるおそる述べたとき,無神経な質問攻めにあた事実を,精神科医は警鐘と受け止めるべきだ。いまの精神科医の多くには,敬虔なひとが抱くきわめて自然な宗教的な考えを尊重する能力が欠けている。クリストファーは知性も洞察力もあり,自分は病気であって,悪魔の影響と強迫観念とは何の関係もないことをよく理解していた。精神的な省察によって,自分は悪魔に操られているのではなく,神経精神病学的症状に苦しんでいるのだと気づいていた。精神科医の診察を受ける前に,自分を見つめ,悪魔の影響だという考えは否定していたのである。クリストファーと彼を誤解した精神科医との最初の出会いがうまくいかなかったのは,恐ろしい苦痛を説明しようとしたクリストファーの側に原因があるというよりも,精神科医にありがちな無知と傲慢の反映だろう。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (1998). 不安でたまらない人たちへ 草思社 pp.163
(Schwartz, J. M. (1996). Brain Lock. New York: Harper Collins.)
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