1857年に生まれたレオノーラ・パイパーは心霊現象研究の歴史上,比類なき「入神(トランス)霊媒」だと言われた。15年以上もの間,数々の厳しいテストを受け,その驚嘆すべき結果によって当時の超能力懐疑派の最右翼,リチャード・ホジスン博士さえも転向させた。彼女は本当に霊と話をしていると,ホジスンは信じた。エセ超能力者やインチキ霊媒の詐術を暴くことで有名だったホジスンも,レオノーラの場合に限っては詐欺の証拠を見つけることができなかった。トリックを使って周りの者をだましているのかどうかを確かめるため,ジェイムズとともに異例なほど長期にわたって調査をしたにもかかわらず,だ。
ジェイムズは義母のイライザ・ギブンズからレオノーラのことを聞いたが,当初は懐疑的だった。イライザは以前,レオノーラから家族しか知らない秘密を告げられていた。それでも疑わしく思ったイライザはあるとき,封印された封筒の中の手紙に何が書かれているか教えてほしいとレオノーラに依頼した。こういうとき,たいがいの霊媒はアルコールに浸したスポンジで封筒を濡らし,中身が透けて見えるようにする手口を使う(アルコールはすぐ蒸発するため,相手はトリックに気づかない)。だが,レオノーラは目の前に封筒をかざすだけで納得のいく答えを出した。さらに不思議だったのは,手紙がレオノーラには理解できないイタリア語で書かれていたのに,内容を説明できたことだ。初めのうち,ジェイムズは義母が霊媒にだまされたとおもしろがった。霊媒がどんなふうに人を欺くか説明したが,レオノーラは本物だという義母の信念はびくともしない。こうなったら,ジェイムズ本人が真実を暴くしかなかった。
心霊主義運動の系譜をまとめた歴史学者トロイ・テイラーの著書『ガス灯の下の幽霊(Ghosts by Gaslight)』によれば,ジェイムズは「レオノーラの家を訪れたとき,交霊会でおなじみの小道具がまったく見当たらないことに驚いた——そこには戸棚も赤色灯も円形に並べた椅子も,メガホンも鈴もなかった」ジェイムズは興味をかき立てられた。レオノーラはジェイムズに,彼のギフト死んだ子供の名前を告げた。レオノーラのスピリット・ガイドが彼らの名前を教えたらしい。ジェイムズは交霊会が始まってから,うっかり情報をもらすことがないよう一言もしゃべらなかったのだから。彼は仰天した。
レオノーラのケースがとりわけ興味深いのは,彼女が自分を宣伝したりはしなかったからだ。それどころか,自分と死者との交流が注目されることに少しばかりいらだっていた。だがよく当たるレオノーラのお告げは有名になり,彼女はSPRのモルモット同然の存在になってしまった。
ウィリアム・リトル 服部真琴(訳) (2010). サイキック・ツーリスト:霊能者・超能力者・占い師のみなさん,未来が見えるって本当ですか? 阪急コミュニケーションズ pp.36-38
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