何しろ現在の神経科学者のほとんどは,種々の脳神経の集まりの活動と,一般的にいえばある精神状態との関連さえわかれば,精神活動がどこから生じるかという問題が解決する,と頭から思い込んでいる。うつ状態が前頭皮質と扁桃体を結びつける回路の活動に関係していることが跡づけられれば,それで説明完了というわけだ。記憶の形成と海馬の電気化学的活動とが関連づけられれば,記憶についてはわかったことになる。たしかに,まだなすべきことはたくさんあるだろう。だが最大の謎—心という言葉が表す壮大な現象が,ほんとうに脳だけで説明できるのか—は,まっとうな科学的研究の対象ではない,と大半の研究者が考えている。これこそ唯物論の勝利というしかない。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.27
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
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