だが,OCD[強迫性障害]の場合はそうではない。患者に「わたしの手は汚くはない」と自分に言い聞かせるようにと教えても,患者はそんなことはとっくに知っている。OCDの問題は,手がきれいなのに気づいていないことではない。汚れているという強迫観念がしつこく襲ってきて,ついに根負けして手を洗う,繰り返し洗い続けるしかなくなることが問題なのである。認知の歪みは病気の本質的な部分ではない。患者は今日,戸棚の缶詰を教えなくても今夜母親が恐ろしい事故で死にはしないとわかっている。問題は,わかっていてもそうは感じられないことなのだ。
認知療法だけではOCDの患者のニーズに応えられないと思ったので,わたしはほかの方法を探した。どんなに激しい強迫観念や衝動も,じつは脳の回路の不調の表れにすぎないのだから,OCDの不快な症状に感情的に反応しないほうがいいと患者に教えれば,治療に役立つのではないか。患者が強迫観念に距離を置けるようになれば,感情的に反応することも,強迫観念を額面どおり受け取ることも少なくなるだろう。そうすれば強迫行為の衝動に圧倒されなくなって,頭では理解してることを実感できるだろう。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.81
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
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