OCDの治療の成果は,意識的,意志的な心が脳とはべつもので,物質つまりモノとしての脳だけでは説明しつくせないことを物語っている。初めてハードな科学が——PETで造影された代謝活動以上に「ハード」な証拠があるだろうか——「心とはほんとうに物質にすぎないのか?」と問いかける陣営に肩入れしたのだ。
四段階療法で脳に起こる変化は,意志的,精神的な努力が脳機能を変えうること,そして,このような自発的な脳の変化——神経の可塑性——が本物であることを示す力強い証拠である。
もう一度,いわせていただきたい。四段階療法は自主的な治療法というだけにとどまらない。同時に,自発的な神経の可塑性への道でもある。
唯物論の還元論者からは,きっと反対の声があがるだろう。「おまえのいうのは,脳の一部がほかの部分を変えるということだ。脳が脳を変えるのであって,PETで明らかになった変化を説明するのに,心と呼ばれる非物質的な存在を持ち出す必要はない」と。
だが,唯物論者の説明では,どうしたってここでいっている変化は説明しきれない。OCDに苦しむ人々を訓練するには,自らの意志的な行動の効力を信じる心を揺り動かさなければならない。自分の脳の回路を系統的に変えるためには何をすべきかをOCD患者に説得するには,唯物論の因果関係に立脚した説明だけでは不十分だし,効果があがらない。行動療法(四段階療法もそのひとつ)が効果をあげるためには,意志が何かを生み出すという実感を含め,患者の内的体験の活用が必要不可欠なのだ。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.97-98
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
PR