子どもの脳の柔軟性あるいは可塑性はほとんど奇跡だ。半球を失っても,最悪でも片側の周辺視野や細かい運動機能が損なわれるにとどまる。外科医が左半球をすべて摘出し,言語野とみられている全部を取り去っても,手術が4歳か5歳までに行われれば,子どもは話したり読んだり書いたりすることを学べる。大半の人は脳の左半球が言語をつかさどっているが,子どもの脳はパンチをかわして,言語機能をまるごと反対側の右半球に移し替えることができるらしい。だから,脳が障害を負ってもともと言語野とされる部分の機能を失ったのが2歳になる前であれば,脳の機能が再構成されて,言語野が移動する。4歳から6歳だと,本来の言語野が損なわれれば重度の学習障害が残るが,それまでに学んだ言語は維持できるのがふつうだ。
6,7歳を過ぎると,脳の進路は決まっているので,言語野が損なわれると思い永続的な言語障害になることがある。成人が言語野である左脳シルヴィウス溝周辺に損傷を受けると,最近のことも理解することもできなくなる。学齢期前の子どもは脳の半分を失っても回復するが,同じ半球のごく小さな部分を損傷したおとなの卒中患者は言葉を失う。幼い子どもの脳は驚くほどの可塑性を有するが,柔軟だった神経は数年もすると融通の利かない頑固者になる。環境が変化しても脳は再構成を拒否するのである。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.104-105
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
PR