幻の感覚は可塑性をもつ脳の神経の変化から生じている。いまはなくなった身体部分からの刺激に反応して発火していた部位のニューロンは,新しい仕事を探し,まだ活動している末梢神経に反応するようになったのだ。大晦日にタイムズスクエアに集まった群衆が,空間ができるとどっとそこに押し寄せるように,周辺のニューロンが皮質の沈黙部位に押し寄せる。そしてこれも大晦日の群衆と同じように,空いた場所のすぐそばのニューロンがまっさきに空間を占拠する。
したがって,身体の上部4分の1のどの部分が切断された四肢のゾーンに侵入するかは,どちらかというと偶然の結果である。手が切断されたあと,顔も胴体部分も手の表現ゾーンである体性感覚野に入り込む可能性がある。足と性器の表現ゾーンは隣り合っているから,足を失った人の中には性行為の最中に幻の足の感触を感じる人がいる。足の体性感覚マップは本来のインプットを失って感覚に飢えており,そこに性器からの神経が入り込むのだろう。同様にガンでペニスを切除した人は,足を刺激されると失ったペニスの感覚がよみがえるかもしれない。足をエロチックだと感じるのも,フロイトが示唆したように無意識のうちに足からペニスを連想するというだけではなく,足の体性感覚の表現ゾーンが性器のゾーンと隣り合っているためもあるのではないか。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.198-199
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
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