「同じ脳なんだから」という考え方を支持する研究は,1996年にNIHのマーク・ハレットの研究所でも行われていた。はレットらは幼いころから盲目だった人々を調べていた。この人たちの場合,一次視覚野は予想するインプット,つまり視覚神経を通じて網膜から送られる信号を受け取らないかわりに,点字を「読む」細かな作業に反応していた。もちろん点字を「読む」とは,盛り上がった点の上を指でたどることを意味する。ふつうは体性感覚野がつかさどる作業だ。だが,視覚野はすぐに目からの信号が入ってこないことに気づくらしい。そこで仕事を変えて触覚を処理することにしたのだ。その結果,ふつうは視覚をつかさどる領域が触覚を担当するようになる。生まれつき盲目の人たちの優れた触覚はこれで説明できるのかもしれない。これは,「異種感覚間の機能可塑性」と呼ばれている。ある機能用に遺伝的に「配線が決まっている」と思われていた脳の領域が,まったくべつの機能を遂行するようになるのである。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.211
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
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