右利きのバイオリニストが演奏するとき,左手の4本の指はつねに弦をいじっている(左手親指はバイオリンのネックを支えているので,位置やかける力はあまり変化しない)。弓を操る右手は,1本1本の指の個別の動きは少ない。このパターンは大脳皮質に痕跡を残しているだろうか?
研究者たちは,演奏歴7年から17年のバイオリニスト6人,チェリスト2人,ギタリスト1人と,弦楽器の経験がなくて音楽家でもない6人を集めた。この被験者たちに静かに座っていてもらい,指先に軽い空気圧をかける。頭蓋につけた脳磁気図検査機器が体性感覚野のニューロンの活動を記録する。
右手については弦楽器奏者と一般被験者で指に対するニューロンの活動に違いはなかったと,1995年に研究者たちは発表した。しかし左手の指については体性感覚野にそうとうの皮質再構成がみられた。研究者たちはこう述べている。「弦楽器奏者の左手の指の表現が占める皮質領域は,一般の人に比べて増大していた」
脳の画像記録によると,12歳以前に楽器を始めた奏者の指のほうが,その後に始めた奏者よりも皮質再構成の程度が大きかった。結果を発表するときに,広報担当者はこれを新事実として強調した——これは要点を取り違えている,とタウブは不満だった。そんなことよりもっと大きな発見は,すべての弦楽器奏者に皮質の再構成がみられたことだった。意外なのは,未成熟の神経システムに可塑性があることではなく(そんなことは「誰でも知っていた」とタウブは言う),可塑性が成人後も存続していることだ。「40歳でバイオリンを始めても,運動依存性の再構成が起こる」とタウブは言う。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.229-230
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
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