脳の可塑性の存在とその重要性には,もはや疑問の余地がない。「最近の神経科学の歴史のなかで最も目覚しい発見は,大脳皮質が感覚的インプットの減少あるいは増強に応じて自らを再構成する能力をもつことである」と,カリフォルニア大学デイヴィス校神経科学センターのエドワード・ジョーンズは2000年に言明した。脳への感覚的インプットを増強する多くの実験は,何を教えたか?皮質表現は不変ではない,ということ。それどころかダイナミックで,わたしたちの暮らしによってつねに修正されているということだ。
ビデオゲーム大好き人間の親指,点字を読む人の人差し指,というぐあいに,脳は一番頻繁な運動に使われる身体部分にスペースを割り当てる。だが,経験が脳をつくり変えるといっても,その経験は関心を集中した経験でなければならない。「受動的で上の空の,あるいは関心が薄い経験は,神経の可塑性を実現するうえで限定した力しかない」と,マーゼニックとジェンキンスは言う。「脳の表現の可塑的変化は,当人がとくに関心を向けているときにだけ表れる」
ここに,重要なカギがある。脳の物理的変化は心のあり方,つまり「関心」と呼ばれる精神状態に依存している。関心を向けることがたいせつなのだ。それはそこここの身体部分の表面,あるいはあれこれの筋肉を表現する脳の領域の大きさに影響するだけではない。脳の回路そのもののダイナミックな構造に,そして脳が自らをつくり変える能力に影響する。
ジェフリー・M・シュウォーツ 吉田利子(訳) (2004). 心が脳を変える サンマーク出版 pp.
(Schwartz, J. M. (2002). The Mind and The Brain. New York: Harper Collins.)
PR