ほかにも疑問は数えきれないほどあり,それらはより深いプロセスが進行していることを示している。なぜ何千キロも離れた別の大陸に住む3人の人間に,同じ遺伝子の突然変異が見られるのか。アラビアの砂漠から生まれたイスラム教が世界中で10億人もの信者を獲得できたのは,どういう理由によるのか。ヨーロッパ人はどのようにしてバイオリンを,モンゴルの馬の毛でできた弓の弦で弾くことを覚えたのか。現代の情報の世界を動かしているアルゴリズムという算法は9世紀のアラブの数学者の名前のアル・フワリズミに由来するが,どんな経緯でこの数学者の名前がつけられることになったのか。中国産の蚕は,どのようにしてイタリアの絹産業の発展に役立ったのか。もともと東地中海世界で行われていた奴隷によるサトウキビ栽培は,どのようにしてカリブ海に移っていったのか。クリストファー・コロンブスが新世界で唐辛子を発見するまでは,朝鮮にはキムチは存在しなかった。それはなぜなのか。アメリカの通貨の名称にドイツの銀鉱山の町の名前がつけられたのはなぜか。カリフォルニアで最初にワインを作り出した葡萄の木が「伝道師の葡萄」と呼ばれたのはなぜか。中国の製紙技術はどのようにして西洋に伝わり,あなた方が今読んでいるたくさんの本を生み出したのか。疑問,質問はさまざまあって,しかも数えあげればきりがない。そしていずれもその起源を辿ると,世界的な結びつきという包括的な現象に行き着く。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(上) NTT出版 pp.7-8
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