インドネシアや中国における原人——いわゆるジャワ原人や北京原人——の化石の発見は,解剖学的な現代の人類,すなわちホモ・サピエンスの祖先がおよそ200万年前からアフリカを出て,アジアや旧世界に植民し始めたことを示している。1950年代のルイ・リーキーやマリー・リーキーといった古人類学者,それに続く30年間の多くの研究者たちの献身的な仕事によって,最古の人類が東アフリカのリフト峡谷に住んでいたことがわかった。イスラエルでは10万年前のホモ・サピエンスの骨が発見された。だがこの種のホモ・サピエンスは絶滅した。当時この地域に住んでいたより頑強なネアンデルタール人によって圧倒されたのだ。
驚くべきことに,ほかに現代の人類の祖先の骨で残っているものといえば,オーストラリアで発見された4万6000年前のものだけである。解剖学的に現代の人類と同じ祖先であるこれらのホモ・サピエンスは,いくつかの複数の起源を持っているのだろうか。それとも,すべてアフリカに住んでいた1つの種から進化してきたのだろうか。これらアフリカで発見された化石が単に最初期の人類のものであるというだけでなく,私たちの直接の祖先であるという証拠は,実は化石そのものではなく,現代の,それも女性の細胞に内包されている履歴にあった。
この驚くべき発見は,以前のDNAの構造の発見に端を発していた。遺伝学者がいま世界の様々な地域で暮らしている人間のDNAを分析することによって,祖先たちの移動経路を再構築し,先史時代の人間がどのように世界に分散し,定着していったかを辿ることが可能となったのである。およそ6万年前に少人数のグループ——現在の東アフリカにいたとされる150人から2000人ほどの人びと——が異銅を始めたことが今日明らかになっている。それから5万年ないしそれ以上の歳月をかけて,彼らはさまざまな方向に少しずつ,ゆっくりと移動していった。そして肥沃な三日月地帯やアジア,オーストラリア,ヨーロッパ,ついにはベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸へと進出していった。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(上) NTT出版 pp.28-29
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