いまから1万年前,人類は南極大陸以外の地球上のすべての大陸に到達し,新しい時代の幕開けに備えることになった。新しい時代の幕開けとは,諸々の社会や共同体が再び結ばれることになる長い道程の始まりを告げるものだった。紀元前2万年のすぐあとに,地球の温暖化が始まった。その後,何度も揺り戻しがあり,短期間だが極度の寒冷や簡抜の時期もあって,本格的に氷河期が終わったのは紀元前1万年のことである。それがきっかけとなったかのように地球上のあらゆる所で氷の層が溶け出し,次いで農業が盛んになり,さらに農民が定住する集落が出現した。その農民社会を基板にして,職人や僧侶,そして首長が生まれていった。狩猟・採集を続けたほとんどの者が遊牧生活を営むようになり,さまざまな定住社会をつなぎ合わせる「歩く連結器」の役割を演じることになる。
農業が生産余剰になると,町が出現し,新しい工芸技術が発達し,日用品の生産が始まった。それ以前に必要に応じて行われていた物々交換は,交易のネットワークを形成するようになった。狩猟・採集社会の人びとは戦いに明け暮れていたが,国家が出現すると,戦争はもっと組織化されたものになった。やがて帝国が次々に建設されていった。紀元前6000年頃には,人間を相互に結びつけることになる基本的な動機——交易によって利を得ようという欲求,信仰を広げたいという宗教的な衝動,新しい土地を手に入れたいという欲望,武力によって他人を支配しようという野望——これらすべてがそろって,今日私たちがグローバリゼーションと呼ぶものをスタートさせたのである。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(上) NTT出版 pp.59-60
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