十字軍の時代に聖地奪回というキリスト教徒の試みの背後に物質的な欲望が潜んでいたことは,秘密でもなんでもなかった。この欲望の最もショッキングな例は,1204年の第四次十字軍の兵士たちによるコンスタンチノープルの略奪だ。当時の記録にはこうある。「天地開闢以来,1つの都市でこんなにも大規模な略奪が行われたことはなかった。金,銀,宝石の山や高価な物の入ったたくさんの箱,そうした略奪品を数えることのできた者は,誰一人としていなかっただろう」。
16世紀,スペインは南アメリカに何度も遠征隊を送った。その目的は,表向きには原住民のインカ族に真の神を受け入れさせることだとされた。だが,征服者フランシスコ・ピサロは,ペルーの原住民の改宗が進まなかった理由を問われて,正直にこう答えている。「私が来たのはそんなことのためではない。彼らから黄金を奪うためだ」。
あるスペインの遠征隊は,神の祝福のもと,メキシコから胡椒の豊富なフィリピンまで帆走するよう命令を受けた。そのとき,遠征隊の司令官はこう説明した。「この遠征の主な目的は原住民を改宗させることとヌエヴァ・エスパーニャ[メキシコ]への安全な帰路を発見することだ。それによって王国は貿易を増やし,正当な手段で利益を得ることができるのだ」。
信仰への新たな改宗者を勝ち取るという大義名分のもとに,何万人もの人間が拷問にかけられ,殺され,いくつかの大陸が征服され,たくさんの資源がヨーロッパのそれぞれの本国に移されることになった。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(上) NTT出版 pp.220-221
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