それはともかく,「日本の国際競争力が落ちている」というこの誤解には,いい面もあります。日本人が勝手に自信喪失して謙虚に振る舞うもので,世界のほとんどのお受験エリートも,日本同様に絶対額ではなく対前年同期比と総合指数だけをチェックしているような方々ですから,日本の製造業がそんなに強力なままであるとは気づきません。86年の円高不況の頃,「日本は脅威だ」と騒ぐアメリカの上院議員が,日本車をぶったたいて壊してパフォーマンスしていましたけれども,今では誰もそんな下品なことはやらないです。彼らも今は,「日本は終わった,今は中国が敵だ」と思い込んでいるわけです。08年の日本の輸出は円高不況の頃の2倍以上に増えていたというのに。
傲慢になることは避けなければなりませんが,日本の国際競争力を論じるすべての人は,ムードに乗って良い悪いを騒ぐのはやめ,客観的で議論の余地のない絶対数,すなわち輸出額,輸入額,貿易収支の額を冷静に眺め,そこから構造を把握するようにしていただきたい。学者ではなくても誰でもできることですし,むしろ学者などに頼らずに,関係者1人1人が自分で数字を確認すべきなのです。
藻谷浩介 (2010). デフレの正体:経済は「人口の波」で動く 角川書店 pp.34-35
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