厳しい国際競争にさらされているこの国なのに,日本はどの国から儲けてどの国に貢いでいるかを確認している人は非常に少ないのです。たとえばとても多くの方が,日中貿易は日本の赤字だと決め付けています。ところが08年の日中の貿易収支は,日本が2.6兆円の黒字でした。07年も日本が2.7兆円の黒字で,不況になってもほとんど変わっていません。ちなみに08年の対米貿易黒字は6.3兆円でしたから,中国もアメリカの4割程度の規模で日本の黒字に貢献しているのです。
一言注釈すると,この数字は対中国と対香港の合計です。三角貿易とはこのことなのでしょうか,日本の対中輸出は香港経由が多いのに,中国は日本に直接輸出しています。香港を忘れて日本と中国の数字だけ見ると,日本の方が赤字に見えますが,日本の対中赤字よりも対香港の黒字の方がずっと多いのでご注意ください。
ちなみに02年以前は日本の対中貿易黒字はまだ数千億円程度でした。ところが今世紀の中国の経済成長に伴って,日本が中国から稼ぐ黒字は2兆円を超えるところまでぐんぐん伸びてきたわけです。あいにく世界同時不況で中国経済も打撃を受けましたので,09年の日本の対中貿易黒字は1兆円第ニ落ち込みそうですが,おれは中国経済が不況になったからであって,日本の競争力が落ちたからではありません。彼らが成長軌道に戻る今後は,当面また日本の対中黒字も増えます。
困ったことに「自虐史観」ならぬ「自虐経済観」とでも申しましょうか,最近国内では,「中国の繁栄は日本の敗北だ」と数字もチェックせずに思い込んで被害妄想になって,声高に「中国は早晩ダメになるぞ」とか,逆に「中国のおかげで日本が没落する」とか騒ぐ向きがあります。「自虐史観を許さない」と威張っているネット右翼の連中が,先頭を切ってそうだったりするので困ります。でも違います。現実には中国が繁栄すればするほど,日本製品が売れて日本が儲かるのです。中国経済がクラッシュすれば,お得意さんを失う日本経済にはそれこそ100年に一度の大打撃です。
藻谷浩介 (2010). デフレの正体:経済は「人口の波」で動く 角川書店 pp.39-41
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