であればこそ,です。今世紀前半の日本の企業社会の最大の問題は,自分の周りの環境破壊ではなく内需の崩壊なのですから,エコと同じくらいの,いやそれ以上の関心を持って若者の給与を上げることが企業の目標になっていなくてはおかしい。本当は「エコ」に向けるのと同等,いやそれ以上の関心を,若い世代の給与水準の向上に向けなくてはおかしいのです。「人件費を削ってその分を配当しています」と自慢する企業が存在すること自体が,「環境関連のコストを削ってその分配当しています」と自慢する企業と同じくらい,後々考えれば青臭い,恥ずかしいことなのです。
そもそも内需縮小は,地球環境問題よりもはるかに重要な足元の問題ですよ。世界的な海面上昇への対処という問題なら,米国や中国に明らかにより多くやるべきことがある。なのに,そういう地球環境問題にはあれほどの関心と対処への賛意を見せる日本人が,どうして若い世代の所得の増大に関心が持てないのか。世界的な需要不足が今の地球経済の大きな問題であるわけですが,こちらはどうみても購買力旺盛な米国や中国のせいではなくて,内需の飽和している日本により大きな責任があると世界中が思っています(今般の経済危機は米国のせいだという人があるかもしれませんが,米国の経済崩壊は,内需不足に苦しむ日本企業が米国人に借金を重ねさせて製品を売りつけ続けた結果であるということも事実です)。これに対処するのって,政府だけの責任なのでしょうか。私は政府よりも企業の方にずっと大きな責任と対処能力が,両方しっかりあると思っているのですが。
藻谷浩介 (2010). デフレの正体:経済は「人口の波」で動く 角川書店 pp.211-212
PR