読者のみなさんも,もうそろそろ議員の無駄遣いの話には辟易としているであろうが,こうした手当の受け取りを拒否して国庫に返還することがなぜできないのかを,ここで説明しておく。
私がこうした手当の拒否を最初にしたのが,実はこの委員長手当だった。これを「いらない」と言ったら,すかさず国会職員の課長がやってきて,「受け取らないと法律違反になります」と言う。
「そんなバカな。いらんものを返すと言って何で法律違反になるのか。わけがわからん」と言う私に,課長が「これを見てください」と作ってきた書類を見せる。
そこには,第1章でも少し触れた「公職選挙法の第199条の2」の条文が書かれていた。
<公職にある者は,当該選挙区内にある者に対し,いかなる名義をもってするを問わず,寄付をしてはならない>
手当の受取拒否が,なぜこの条文に違反するのかはわかりにくいが,要は,手当を国庫に返納するのいうのは国への寄附行為にあたり,しかも選挙区は国の一部であるから,国庫返納という行為には選挙区への寄付も含まれている,という理屈だ。
「ワシの場合は,返還するのとは違うぞ。最初から受け取らんのだから,寄付にはならんだろう」
「それは,だめです。同じことです」
納得できないまま,何度もこんなやり取りを繰り返していたら,最後は衆議院法制局が考えてくれた。
「委員長手当は委員会を運営するための経費であり,委員長が不要とする場合は支給しない」
この解釈により,私は委員長手当を受け取らずにすんだが,結局は2ヵ月で委員長をクビになった。
ただ,それでもこの衆議院からの判断をもらったのは,後に大きな意味をもつことになる。「受け取らないと法律違反になる」と言う者たちに対して前例として提示することができるようになり,ほかの議員が同様に不要な手当や経費の受け取りを拒否する際のよりどころとなっていったのだ。
河村たかし (2008). この国は議員にいくら使うのか:高給優遇,特権多数にして「非常勤」の不思議 角川SSコミュニケーションズ pp.88-90
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