現実を歪めて知覚し,自尊心を高めたとしても,一時的にはよい気持ちになるかもしれないが,そこに価値があるとは考えにくい。長い目で見れば,自己欺瞞は不適応をもたらす。その極端な例がナルシシズムである。
Baumeister(1989)は,「幻想の最適な境界線」があると述べている。つまり,ポジティブな方向に少しだけ歪めて知覚することは適応的であるが,大きく歪めたりネガティブな方向に歪めることは不適応的であるという考え方である(Baumeister, 1989)。しかし,こうした仮説に反して,現実を大きく歪める場合でも益があるという研究結果もある(Baumeister, 1989; Baumeister & Scher, 1988)。また,この仮説のようにポジティブな幻想がネガティブな幻想よりも価値があるという仮定には,何の根拠もない。場合によってはネガティブ幻想にも価値があるかもしれない。これについては今後の検討が必要である。
M.R.リアリー 自尊心のソシオメーター理論 (2001). R.M. コワルスキ&M.R.リアリー(編著) 安藤清志・丹野義彦(監訳) 臨床社会心理学の進歩 実りあるインターフェースをめざして 北大路書房 222-248.
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