「不吉な日」に提出された修正和解案における最大の「修正」部分は,
「当初の和解案では世界中の書籍の大半がその対象とされていたが,修正和解案では,米国の連邦著作権登録局に登録されている書籍か,米国・英国・カナダ・オーストラリアの4か国で出版された書籍に限定する」
とした点だ。これにより,日本で刊行され日本語で書かれた書籍はグーグル和解案の土俵から外れることになる。グーグル社への反発が特に強かったドイツやフランスの書籍も同様に和解案から外された。裁判所から和解案を丸ごと否定されてしまう前に,口うるさい国々からの全面撤退をグーグルが自ら決めたわけだ。
「グーグルブック検索和解」事件の本質は,インターネットとデジタル技術を悪用し,著作権条約などを身勝手に解釈しながら,世界中の著作権を牛耳ろうとグーグル社が企んだ海賊版事件に他ならなかった。
大砲を打ちかましながら幕末の日本に開国を迫った「黒船襲来」さながらに,潤沢な資金と「宇宙最強」とも評される敏腕弁護士軍団を随え,インターネットへの「著作権の開放」を迫ってきた“巨像”グーグル社に対し,当初は歯向かうことすら恐ろしく感じたものだ。「和解案を潰す」ことが目的だった筆者にしてみれば,十分すぎるほどの大勝利である。ドイツ政府やフランス政府の後押しや,日本政府の見解表明という神風めいた追い風が吹いてくれたものの,諦めさえしなければきっと活路は見出せるものなのだと,しみじみ思う。
明石昇二郎 (2010). グーグルに異議あり! 集英社 pp.164-165
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