独占禁止法と知的財産法は,もともとぶつかり合う関係にある法律です。
知的財産法は,知的創造を行なった人に,その創造物の独占的使用権を認めて,インセンティブを高めることを目的としています。反対に,競争を促進することを目的としている独占禁止法は,市場を独占することは競争を阻害するとして禁止しています。
競争を促進することによって独占禁止法が実現しようとしている価値と,知的創造のインセンティブを与えることによって知的財産法が実現しようとしている価値の両方を,バランスよく実現していくためには,2つの法律が調和するように解釈することが必要となるのです。
しかし,これまで多くの法学者はその専門領域の中だけで物事を考えようとし,タコツボの中に入って出てきませんでした。そのため企業法相互の関係を考え,体系化しようという発想がほとんどなく,それが経済社会における法の機能を阻害していたのです。
実は多くの企業不祥事が,複数の法律の目的がぶつかり合う領域で生じています。その法律と背後にある社会からの要請に加えて,関連する別の法律の背後にある価値感も視野に入れなければ,問題の根本的な解決にはつながりません。それは,企業に関する法全体を体系化して「面」でとらえるということです。
郷原信郎 (2007). 「法令遵守」が日本を滅ぼす 新潮社 pp.138-139
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