では,組織は,どうしたら社会の要請に応えることができるのでしょうか。
まず第1に,社会的要請を的確に把握し,その要請に応えていくための組織としての方針を具体的に明らかにすること。第2に,その方針に従いバランスよく応えていくための組織体制を構築すること。第3に,組織全体を方針実現に向けて機能させていくこと。第4に,方針に反する行為が行われた事実が明らかになったりその疑いが生じたりしたときに,原因を究明して再発を防止すること。そして第5に,法令と実態とが乖離しやすい日本で必要なのが,1つの組織だけで社会的要請に応えようとしても困難な事情,つまり組織が活動する環境自体に問題がある場合に,そのような環境を改めていくことです。
この5つこそが,従来の短絡的な法令遵守の徹底とは異なる,「社会的要請への適応=コンプライアンス」という考え方なのです。社会の中で組織が存在を認められているのは,その組織が社会の要請に応えているからこそです。それに反する行為が行なわれた場合に,企業の事件や不祥事につながるのです。
私は,これら5つの要素を「フルセット・コンプライアンス」と呼んでいます。
郷原信郎 (2007). 「法令遵守」が日本を滅ぼす 新潮社 pp.152-153
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