そうした政治連盟のひとつ,支部での推薦候補を決める際,次のようなことがあった。
その政治連盟の支部がある選挙区には,自民,民主の両方の候補者が立ち,どちらを支援し,推薦を出すか決めかねていた。ただし支援を受けるには,選挙区に住む当該政治連盟会員の推薦人を20人集めるという条件が課せられていた。
民主党の新人候補が,選挙区を駆けずり回った末,その政治連盟の推薦を受ける権利を獲得したのは5年目のことだった。酒を飲み,政治を語り合い,一緒に旅行に行き,やっとの思いで20人の推薦人を得た上での支持の約束だったのだ。
ところが,相手の自民党現職が引退を表明し,息子に選挙区を譲るということになった。もちろん息子の推薦人はゼロである。
しかし,出馬を表明した翌日には,推薦人の20人を確保してしまったのだ。自民党候補だからという理由ではない。推薦の理由は,候補者が,現職の長男だったからだ。こうして,世襲議員は無意識のうちに貴重な財産とも言うべき人間関係を作っていることが多いのだ。
手間が省けたというだけの話では済まない。この民主党新人候補のように,1つの支援を取り付けるのに,多くの候補者は,カネも時間も使って苦しんでいるのだ。
それに比して,世襲は楽である。支援団体の相続というのは,つまり地盤とカバンの両方を一瞬にして得られるからだ。しかし同時に,自らも知らないうちに努力を怠っているということになる。繰り返すが,それがひ弱さを作るのだろう。
上杉隆 (2009). 世襲議員のからくり 文藝春秋 pp.113-115
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