また,個人の性格の違いによって脳の反応の仕方が異なる例も知られている。これまで述べてきたような質問紙による方法で,個人の「不安度」を測ることができる。そのためには,個人の持つ性格としての「特性不安」を測るためにスピルバーガーが作成したSTAIという検査が頻繁に用いられる。特性不安の高い人は,脅威となり得る刺激に非常に敏感である。これは,前頭前野背側外側部(DLPFC)が入力刺激を十分に制御することができていないからではないかと考えられている。この仮説を支持するべく,ソニャ・ビショップの研究は,特性不安の高い人ではDLPFCの活動が脅威刺激に限らず弱まっていることを示した。この発見により,不安を感じやすい性格の人は,課題に応じて関連した対象へ適切に注意を向けるという制御機構に問題を抱えていると思われる。
この研究はまた,個人の特徴が局所的な脳活動の強さに反映されている例として重要である。一般にfMRIの解析では,個人差というものはノイズにすぎないとして扱われがちだ。それは,fMRI解析が人間一般についての脳活動の平均的パターンを見つけ出すという目的のもとでおこなわれている解析だからである。複雑な社会における脳活動を今後さらに調べていくと,個人の性格や能力の違いで脳活動のパターンも大きく異なってくるような状況は次々に出てくるだろう。そのようなときに,この例のように性格特徴検査などを解析の一部として組み込むことで,脳の各部位のより詳細な理解を得ることができるようになるだろう。
金井良太 (2010). 個性のわかる脳科学 岩波書店 pp.20-21
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