脳構造に基づいて個人の特徴や認知症などの予測がある程度できると言ってきたので,脳を見ただけで何もかもわかってしまうのではないかという不安や期待をかき立てたかもしれない。しかし,そのような予測がどの程度正確なのかということには常に注意を払う必要がある。というのは,新しい研究ではかろうじて統計的な傾向が見られたにすぎない状況も多々あるし,なんらかの特殊な実験状況のみで成立する発見の場合も多いからだ。それは,科学者が仮説を検証したり原理的な可能性を検証する段階では十分だが,現実世界に応用できるレベルまで来ているかどうかを検討するには,予測の精度が問題となる。
科学ニュースなどで新しい脳科学の発見が一般向けに簡略化される過程では,「なにかができる」という可能性の面ばかりが強調されてしまい,実際の予測の精度や具体的な状況は表からは見えにくい。
金井良太 (2010). 個性のわかる脳科学 岩波書店 pp.37-38
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