今日の南アメリカでは,アフリカ人の存在は誰の目にもはっきりとわかるが,ヨーロッパ人移民が残した奥深い影響はあまりよく知られていない。コロンビア国内で実施された遺伝子調査によると,南アメリカや中央アメリカのスペイン植民地では,ヨーロッパ人男子のDNAが圧倒的に優勢で,父系で継承されるY染色体の94パーセントがヨーロッパ人に起源を持つ研究結果が示された。またこれに対し,コロンビアで発見されたアメリカインディアンのmtDNA——母系のDNA——に多様性が認められたことについて,現代遺伝学の父と呼ばれるジェームズ・D・ワトソンは,「侵略してきたスペイン人はみな男で,彼らは現地の女性を妻とした。アメリカインディアンのY染色体が実際にはほとんど存在しないという事実は,植民地の悲劇的な大量殺戮を物語っている。先住民の男子は抹殺され,女子が征服者によって性的に「同化吸収」された,ということだ」と結論づけた。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(下) NTT出版 pp.28-29
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