帝国主義的冒険によって,偶然にも新しい農作物や種子が世界に知られるようになったが,なかでもアジア人の味覚の原点とも言うべきもっとも重要な食物は,おそらくコロンブスが新大陸で発見したチリ・ペッパー(唐辛子)だろう。このペッパーは,古代アステカではチリ(ピリっと辛い果実)と呼ばれ,ペッパーコーン(コショウの実)の仲間とされているが,いまでは「チリ・ペッパー」の呼び名が一般的である。いまでもアジアの人びとが驚くのは,自分達の伝統の味だと思っていたあの「激辛チリ」が,実は450年前,ヨーロッパ人探検家や交易商人によって伝えられ,コロンブスがいなければインドの「ホット(辛い)カレー」もなかったという事実だ。そして朝鮮の人びとの場合には,その驚きは最悪だ。誇り高く民族意識の強い現代の韓国人の多くは,あの燃えるように辛いキムチ——発行させた白菜にニンニクと唐辛子を混ぜた漬物——が,彼らの憎むべき日本のサムライ,豊臣秀吉の朝鮮侵略によって,16世紀に初めて伝えられたとは認めたくないだろう。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(下) NTT出版 pp.49
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