グローバリゼーションを糾弾する市民グループの主張を検証してみると,彼らの懸念は世界規模で拡大していく相互接続社会のあり方に絞られるが,その問題点は整理しきれないほどの数に上った。その上,ざっと見ても本質的には共通点のない異質なものがほとんどで,ときにはグローバリゼーションとは相反する矛盾した主張もあった。市民グループの例を挙げてみると,無政府主義者,反資本主義者(社会主義者や共産主義者),遺伝子組換え食品反対派,環境保護運動家,反核運動家,先住民の権利養護の運動家,労働組合,移民賛成あるいは反異民ロビイスト,反労働搾取団体……と数限りなく,こうしたグループの活動には,反戦や生物多様性の保護,文化的自立性の養護なども含まれ,ただ単に反アメリカというものまであった。では,グローバリゼーションに対し,最も重要で深刻な問題を提起しているのは誰か。それは,低賃金国との競争を強いられ,失職を恐れる先進国のサラリーマンたちだ。また,街頭デモなどでは滅多に叫ばれることはないが,反グローバリゼーション感情に拍車をかけているほかの要因には,移民社会の進出による民族的・文化的独自性の喪失に対する不安や,弱小国の文化を消滅,腐敗させていく超大国の覇権主義的文化,金満西側諸国への怒りなどがあった。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(下) NTT出版 pp.162-163
PR