富裕国の保護主義経済で最もスキャンダラスな例は綿花だ。綿花をめぐる貿易の不公平ルールは,当然のごとく,グローバリゼーションの醜悪な一面を象徴する証拠としてしばしば反対派が取り上げる。ベニン共和国,ブルキナファソ,カメルーン,チャド,マリなど綿栽培を主要産業にしている国々の農民が,世界市場で自国製品を売ろうとしてもとても太刀打ちはできない。世界市場の綿価格は,アメリカやヨーロッパ連合(EU)が自国業者にふんだんに提供する巨額の補助金(アメリカの綿農地1エーカーにつき230ドル)によって,生産コスト以下の価格を維持していた。ある推計によると,1999年から2001年の3年間で,アフリカの綿花栽培8ヵ国は,世界の最貧国としては途方もない額の3300億ドルの輸出損益を出した。これをアメリカ国内の2万5000戸の綿花農家が2001―02年に受け取った補助金39億ドルと比べてみてほしい。一方,欧州連合(EU)はギリシャの農民に綿栽培の補助として年間10億ドルを支払っているが,こうした補助金が撤廃されたとしたら,世界の綿花価格はおそらく15パーセントかそれ以上は上昇し,アフリカ諸国の何千人もの農民たちが生計を立てることができるだろう。
ナヤン・チャンダ 友田錫・滝上広水(訳) (2009). グローバリゼーション:人類5万年のドラマ(下) NTT出版 pp.172
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