記憶の分野では屈指の科学者であるエリザベス・ロフタスはこのプロセスを「想像力の肥大化(イマジネーション・インフレーション)」と呼んでいる。何かを想像すればするほど,詳細な部分を付け加えながらそれを膨らませて実際の記憶に繰りこんでいくからだ(神経レベルでどのような作用になるのかを知ろうと,肥大した想像力が脳へ送りこまれる過程をMRIで追跡した科学者さえいた)。たとえば,ジュリアナ・マッツォーニらは被験者に夢の内容を語らせ,そのあとでこれを「本人専用」に(わざとインチキの)解析をして結果を伝えた。研究者らは被験者の半数に,その夢はあなたが3歳にもならないころ,いじめっ子にひどい目に遭ったのを意味するとか,どこか外の広い場所で迷子になったり,ともかく幼少時にこの種の騒動を経験したのを意味すると話した。こうした解析を受けなかった対照被験者と比較すると,彼らは解析された内容が実際に起きたと信じる傾向が強く,うち約半数は自分で経験の細部を思い出すようになった。別の実験での被験者は,全国的な保険調査用に学校の保健室の先生があなたの小指から皮膚の標本を採取した時のことを思い出してくださいと指示される(こうした調査は実施されていない)。こうした現実ではないはずのシナリオを想像するだけで,被験者はこれが実際の出来事だと自信を深めてしまう。そして自信が深まるほど,偽の記憶に感覚的な詳しい情報が付け加えられていく(「保健室はひどい臭いでした」)。非現実的な出来事について説明してくださいと被験者に指示するだけでも,研究者は想像力の肥大化を間接的に引き起こすことができた。認知心理学者のマリアンヌ・ゲアリーによって判明したところでは,人は何かが起きたのを説明しようとすると,まずそれを自分で現実味をもって感じるのだという。子どもは特にこうした示唆に弱い。
キャロル・タヴリス&エリオット・アロンソン 戸根由紀恵(訳) (2009). なぜあの人はあやまちを認めないのか:言い訳と自己正当化の心理学 河出書房新社 pp.116
(Tavris, C. & Aronson, E. (2007). Mistakes Were Made (but not by me): Why We Justify Foolish Beliefs, Bad Decisions, and Hurtful Acts. Boston: Houghton Mifflin Harcourt.)
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