船が遭難し,荒れ狂う海で溺死しそうになった船乗りが遭難したという,心あたたまるニュースがときおり報じられる。船乗りの脇に海中からイルカがふいに姿を現し,優しく,しかし確実にその体を鼻で押しながら海岸まで連れていってくれたというのだ。イルカはほんとうに人間によく似ていて,私たちの命を救ってくれたと思いたくなる。しかし待ってほしい。人間は自分たちのようには泳げないとイルカは知っているのだろうか。ほんとうに人助けをするつもりだったのだろうか。この疑問に答えるためには,イルカの鼻先で優しく押されながらさらに遠くへ連れていかれ,沖で溺れて行方知れずになった船員が何人いるかを知る必要がある。彼らは何も話してくれないので,事情は不明だ。こちらの情報も入手できたならば,結論はこうなるかもしれない。イルカには善意も悪意もなく,ただ遊び好きなだけだ,と。
キャロル・タヴリス&エリオット・アロンソン 戸根由紀恵(訳) (2009). なぜあの人はあやまちを認めないのか:言い訳と自己正当化の心理学 河出書房新社 pp.143-144
(Tavris, C. & Aronson, E. (2007). Mistakes Were Made (but not by me): Why We Justify Foolish Beliefs, Bad Decisions, and Hurtful Acts. Boston: Houghton Mifflin Harcourt.)
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