ただ幸いにも,誰かへの寛大な行為が善意と憐れみの連鎖を生むという,悪循環ならぬ「善の循環」をつくりだすメカニズムがあることも,不協和理論は教えてくれる。誰かに善いことをすると,特にそれがふとした気まぐれや偶然によるものである場合は,人は自分の寛大な行為をあたたかく見つめるようになる。その人物に善行を施したという認識は,相手に抱いていたかもしれない否定的な感情とのあいだに不協和を生み出す。善いことをしたあとで,「私としたことが,どうしてあんな嫌なやつに,善いことをしてしまったのだろう。ということは,あいつは思っていたほど嫌なやつではないのかな。いや,じつは仲直りしてやっていい好人物かもしれないぞ」と論理が回っていくのである。
キャロル・タヴリス&エリオット・アロンソン 戸根由紀恵(訳) (2009). なぜあの人はあやまちを認めないのか:言い訳と自己正当化の心理学 河出書房新社 pp.40-42
(Tavris, C. & Aronson, E. (2007). Mistakes Were Made (but not by me): Why We Justify Foolish Beliefs, Bad Decisions, and Hurtful Acts. Boston: Houghton Mifflin Harcourt.)
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