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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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チューリップの特異性

 このように色と色が見事なコントラストを織りなしながら模様になるところが園芸家の心をとらえるのである。チューリップ・バブルを理解するには,17世紀において,チューリップがほかの園芸用植物と大きく異なっていた点を理解しなければならない。チューリップの強烈で濃厚な色合いは,当時のどの花にも見ることができなかった。それはたんなる赤ではなく,燃えるような緋色であり,ありきたりの紫ではなく,かぎりなく黒に近い,魅惑的な深紫であった。そしてそれぞれの色が見事なまでにくっきりと輪郭を描いて,ほかの複色の花のように,1つの色がグラデーションで混じりあって別の色になるようなものではなかった。
 ローゼン系の赤やフィオレテン系の紫のような園芸品種を特徴づける色は,花弁の真ん中を下から上へ羽根状または炎状に伝い上がるか,花弁の先端で縁取りとなる。これらの色は,チューリップの茎にまだらに現れることもあるが,花弁の基部を着色することはない。種類によって,基部は白(ときに青みを帯びる)か黄色である。羽根状または炎状の模様はそれぞれ異なり,同じ園芸品種でよく似ていても,まったく同じ模様が現れることはない。
 ブーム初期の頃からオランダのチューリップ愛好家は,このような色斑が形づくる模様のわずかな差違をもとに花を等級分けしていたが,そこにはある厳密な基準が存在していた。もっとも価値があるとされた「最上級」のチューリップは,花弁全体がほぼ白か黄色で,花弁の中央か縁に沿って紫,赤,または茶の斑が細い縞状に入ったものであった。色合いが派手であると愛好家が判断した場合は「下級品」に分類されて評価は下がった。
 野生種のチューリップは丈夫ながらも,花が素朴で単色であるのに対して,オランダ黄金時代の園芸品種は,なぜあれほどまでに複雑で華やかな模様をなすようになったのであろうか?答は簡単かつ不気味なものである。花は病気におかされていたのである。チューリップ・バブル時に何百,いや何千ギルダーという法外な値段で取引されていた人気の新品種はみな,チューリップにだけ観戦するウイルスにおかされていた。鮮やかで豊富な色合いを生んだのも,チューリップだけに現れて収集家を虜にした強烈な色模様も,すべてはそのウイルスのせいであった。

マイク・ダッシュ 明石三世(訳) (2000). チューリップ・バブル:人間を狂わせた花の物語 文藝春秋 pp.98-99
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