人間は他の動物とは異なり,死を避けることができないことを認識している。こうした死の不可避性の認識が,人間に実存的な脅威を引き起こさせる。この脅威を和らげるために,人間は宗教や芸術といった文化を作り出したのである。自尊心もまた,死への脅威を緩衝するという防衛的な機能をもっている(Solomon, Greenberg, & Pyszczynski, 1991)。死への脅威に身がすくんでしまうことがないように,人は自尊心を維持するように動機づけられるのである。
この理論を支持する実証的な証拠はかなりある。たとえば,人はいつか必ず死ぬのだという運命を強調すると,自尊心への関心が強まる。また,自尊心が高いと,死についての不安が弱まる(Greenberg et al., 1992)。しかし,自尊心が実存的な脅威を緩衝するかどうかについては,強く支持する研究はまだなく,支持しない研究もいくつかある(Sowards, Moniz, & Harris, 1991)。まだ議論の余地があるものの,脅威処理理論は自尊心の機能について考える手がかりになる。
注)進化論的に見ると,脅威処理理論はうまい説明ではない。進化論的に見ると,死や不幸を心配する低自尊心の人のほうが,心配しない高自尊心の人よりも,生き残って子孫を増やせるだろう(Leary & Schreindorfer, 1997)。進化の過程において,死に対する脅威を和らげるシステムができてくるとは考えにくい。
M.R.リアリー (2001). 自尊心のソシオメーター理論 R.M. コワルスキ&M.R.リアリー(編著) 安藤清志・丹野義彦(監訳) 臨床社会心理学の進歩 実りあるインターフェースをめざして 北大路書房 222-248.
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