ゴルトンはプラトンの『国家』から着想したのかもしれない。この本にもユートピア社会が描かれていて,そこではエリートの守護者階級の人々が「狩猟犬の犬」のように繁殖させられる。その子供たちは保育エリアに連れていかれ,そこで乳母によって「育てられる」が,「下級者の子孫,またはたまたま奇形になった上級者の子供は,本来いるべき,どこかよくわからない未知の場所に監禁される」ので,守護者は純血を保たれる(プラトンにはよくあることだが,これをどれだけ文字どおりにとらえるべきかはよくわからない)。社会を改善するツールとしての優生学は,最近でもナチスからウィンストン・チャーチルまで,さまざまな人々に支持され,1970年代になってもカナダのアルバータ州など各地の行政機関の政策に採用された。一方,共産主義者は生まれつきよりも育ちを養護し,形質は国家によってつくり上げられると考えた。レーニンは大胆にもこう言っている。「人間は矯正できる。人間はわれわれが望む通りのものにできるのだ」。予測で重要なのは未来を予言することだけでなく,未来をコントロールすることである。そして科学的予測は研究対象の体系についてと同じくらい,政治学や社会学についても語ることができる。
デイヴィッド・オレル 大田直子・鍛原多恵子・熊谷玲美・松井信彦(訳) (2010). 明日をどこまで計算できるか?「予測する科学」の歴史と可能性 早川書房 pp.201
PR